京都地方裁判所 昭和42年(手ワ)363号 判決 1969年5月12日
原告
美山広子こと
美山弘子
代理人
東茂
被告
長沢ふゆ子
代理人
小林為太郎
主文
被告は原告に対し金一二五、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年三月一日から完済に至るまで年六分の割合による金員の支払いをせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は担保を供せずして仮執行ができる。
事実
原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、
一、請求の原因として、
(1) 被告は次の約束手形一通(以下本件手形という)を振出して、これを訴外中村三郎に交付した。
額面 金一二五、〇〇〇円
満期 昭和四二年二月二八日
支払地 亀岡市
支払場所 株式会社京都銀行亀岡支店
振出地 亀岡市
振出日 昭和四一年一二月一日
振出人 被告
受取人 中村三郎
(2) 原告は昭和四一年一二月初旬右手形を訴外中村三郎から交付によつて譲受け右手形に被裏書人を前田久と指定して裏書し、これを訴外前田久に交付した。
(3) 右訴外人は右手形に被裏書人を商工信用組合と指定して裏書し、これを同組合に交付した。
(4) 右組合は昭和四一年一二月下旬右手形の受取人らん記載の「中村三郎」なる文字を抹消して同所に「美山広子」と記載し、右手形をその満期に該支払場所に呈示したがその支払いを拒絶された。
(5) 原告は、訴外前田久に、右手形金一二五、〇〇〇円を支払つて、右手形を受戻し、現にこれを所持するものである。
(6) よつて、右手形の適法な所持人である原告は、その振出人である被告に対し、右手形金一二五、〇〇〇円およびこれに対するその満期のあとである昭和四二年三月一日から完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払いを求めるため本訴請求におよび旨陳述し、
二、<証拠―省略>
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、
一、答弁として
(1) 原告主張の請求原因(1)の事実は認める。
(2) 同(2)および(3)の各事実は不知
(3) 同(4)の事実中本件手形がその満期に該支払場所に呈示されたが、その支払いを拒絶されたことは認めるが、その余の点は不知
(4) 原告は本件手形の受取人らんに記載してあつた「中村三郎」なる文字を権限なくして抹消し、同所に自己の氏名を記入して、本件手形を変造したものである。
(5) よつて原告は、本件手形を所持しているとしても、その振出人である被告に対し、本件手形金の支払いを求めることはできない旨陳述し、
二、<証拠―省略>
理由
一原告主張の請求原因(1)の事実および本件手形がその満期に該支払場所に呈示されたがその支払いを拒絶されたことは、当事者間に争がない。
二右争のない事実に、<証拠>を総合すれば、被告の夫訴外長沢四郎は、昭和四一年の年末に、訴外中村三郎の依頼を受けて、同訴外人に金融を得させるために、本件手形を受取人らんには「中村三郎」と記載して、被告の承認の下に提出して、これを同訴外人に交付したこと、訴外中村三郎は、その頃右手形を訴外松本義太郎に交付して、同手形の割引幹旋方を依頼したこと、訴外松本義太郎は、右のとおり訴外中村三郎から依頼されて、右手形を受取り、その頃原告に対しその割引方を依頼して右手形を交付したこと、原告は、右のとおり訴外松本義太郎から依頼されて、右手形の交付を受けたけれども、右手形を割引く程の資金がなかつたので、その頃、その割引方を訴外前田久に依頼し、右手形の第一裏書らんに訴外前田久をして、原告の氏名を記載させ、その名下に原告の印を押捺して裏書し、右手形を、右訴外人に交付して、同訴外人より右手形の割引金を得てこれを訴外松本義太郎に交付し、同訴外人は右割引金を訴外中村三郎に交付したこと、訴外前田久は、その頃、右手形の第一被裏書人らんに「前田久」と記載しその第二裏書らんに被裏書人を商工信用金庫と指定して裏書し、これを同組合に交付したこと、同組合が右手形をその満期である昭和四二年二月二八日に該支払場所に呈示したがその支払いを拒絶されたこと、そこで原告は、訴外前田久に対し右手形金一二五、〇〇〇円を支払、同訴外人はこれを商工信用組合に支払い、原告は右組合から直接右手形を受戻した、原告がその時、右手形を見ると、右手形表面の受取人らんに記載してあつた「中村三郎」なる文字が抹消されて、同所に「美山広子」と記載されたていたこと、および原告が現に右手形を所持していることを、いずれも認めることができ右認定に反する証拠はない。
三右認定事実によれば、何人かによつて本件手形の受取人らんに記載されてあつた「中村三郎」なる文字を抹消されて、同所に「美山広子」と記載され、変造されたものであるということができ、本件手形の振出人である被告は、右変造前の文言に従つて責を負うものである。
そうすると、前記認定事実によれば本件手形は、その受取人は中村三郎であるのに第一裏書人は原告であるから、本件手形は裏書の連続を欠き、原告が本件手形を占有していても手形法第七七条第一六条によつて、適法な所持人とみなされることはない。
然しながら、手形所持人が実質的権利を証明したときは、形式的資格を備えていなくても、手形上の権利を行使することができるものと解すべきであり、前記認定事実によれば、被告は中村三郎に金融を得させるために、本件手形を振出して同訴外人に交付し、原告は本件手形の受取人である中村三郎から、訴外松本義太郎を介して本件手形の交付を受けて、同手形による融通の依頼を受け、これに裏書して、同手形を訴外前田久に交付して、同訴外人から、その割引金の交付を受けて、これを訴外中村三郎に交付したところ、右手形がその満期に呈示されたがその支払いが拒絶されたので、原告が訴外前田久に対し遡求義務を履行して本件手形を受戻したものであるから、原告は被告が、訴外中村三郎のために振出した融通手形に融通を与えたものと同じ立場にあるものということができ、手形の適法な所持人として、その振出人である被告に対し、本件手形金一二五、〇〇〇円およびこれに対するその満期のあとである昭和四二年三月一日から、完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払いを求める権利を有するものといわなければならない。
四よつて、原告の本訴請求は相当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言について同法第一九六条第一、二項を各適用して主文のとおり判決する。
(常安政夫)